道路交通法改正により、ドライバーのアルコール検知器によるチェックが義務化されました。
これまでも義務化されていましたが、2022年4月から対象者が拡大し、2023年12月1日からはさらに厳格化されます。
介護事業者も、高齢者の送迎やご自宅への訪問などで何かと車両を使うことが多い職種。対象事業者にならないか確認し、法令遵守に向けての準備が必須です。
この記事ではアルコールチェック義務化の対象者について解説します。実施責任者の選任や役割についても解説しますので、介護事業者の方は参考に準備を進めてください。
アルコールチェック義務化とは
アルコールチェックの義務化は、2011年より限定的に行われていました。
2023年12月1日から厳格化される内容は以下のとおりになります。
- 運転前と運転後の計2回、目視とアルコール検知器を用いたアルコールチェック
- アルコールチェックの結果を記録して1年間保管
従来では、ドライバーに対してのアルコールチェックは、目視での確認が認められていました。しかし、法改正後はアルコールチェッカーを用いてアルコール濃度を計測することが義務化されます。
アルコールチェックは、運転前と運転後の計2回行わなければなりません。チェックには安全運転管理者が立ち会うのが原則です。
勤務の関係などで安全運転管理者が直接確認できない場合には、カメラやモニター、スマホの画面などを用いて、対面での確認に準じた方法でチェックします。または、副安全運転管理者や安全運転管理者の業務を補助する者の対応も可能です。
安全運転管理者が責任を持って、アルコールチェックの記録を1年間保管することもルール化されています。
タニタ アルコールチェッカー
■検知方式:半導体ガスセンサー
■測定範囲:0.00-0.50mg/L、0.05mg/L単位(0.05mg/L未満は0.00mg/L表示)
■表示方法:LCD12段階表示
■商品サイズ:幅 32mm×高さ105mm×奥行 17mm
■重量:約31g(乾電池含まず)
■電源:DC3V 単4形アルカリ乾電池2本
■過去メモリー:前回値(前回値から増減比較機能付き)
息を吹きかけるだけで、呼気中のアルコール濃度をお知らせします。
アイリスオーヤマ アルコールチェッカー
■検知対象ガス:呼気中アルコールガス
■オートオフ・電池交換表示機能付き
■電源:単4乾電池×2本(別売)
■重量:50g
■検知レベル:0.00~1.00mg/L
■サイズ:37×20×102mm
息を吹きかけるだけで呼気中のアルコール濃度を測定できます。
電池交換表示機能付きです。
アルコールチェック記録表
■仕様 : A4版 片面 100枚/1冊
アルコールチェック義務化の対象者
アルコールチェックの対象者は段階的に拡大しています。対象者が拡大されるきっかけになったのは、2021年6月に千葉県八街市で起きた飲酒運転のトラックによる事故です。下校中の小学生の列にトラックが突っ込み、児童5人が死傷するという痛ましい事故により、アルコールチェックの厳格化が議論されました。
アルコールチェックが義務化に至る経過は以下のとおりです。
2022年3月までは緑ナンバーの車両が対象だった
事業者へのアルコールチェックの義務は、2011年から始まりました。このときの対象となっていたのが「緑ナンバー」の車です。緑ナンバーの車とは、お客様の荷物を有償で運搬する事業者や、運賃をもらって業務を行う事業に使用する車両をいいます。
背景が緑色で文字が白色のナンバープレートが取り付けられており、運送業者のトラックやバス、タクシーなどが該当します。これらの車両のドライバーには以前よりアルコールチェックが義務付けられていました。
2022年4月から対象者が拡大した
前述の千葉県八街市で起きた白ナンバートラックの事故がきっかけで、2022年4月から白ナンバー車両もアルコールチェックの対象となりました。
白ナンバー車両とは、自家用車両のことです。自社の荷物や人員を無償で運搬する車両には、一般のマイカーと同様の白ナンバープレートでの営業が認められています。お客様のもとや現場などに向かうために使う車や、自社の荷物を運搬するための車が該当します。
ただし、すべての白ナンバー車両が対象となるわけではありません。
アルコールチェック義務化が適用されるのは以下の事業者です。
- 定員11人以上の車両を1台以上保有
- その他の自動車を5台以上所有(オートバイは0.5台として換算)
自家用車両を業務で使用する場合、上記に該当すればアルコールチェックの対象となるため注意が必要です。
アルコールチェックの実施責任者
アルコールチェックの対象事業者は、実施責任者を定めなければなりません。この、実施責任者の役割が重要なため、概要をチェックしておきましょう。
安全運転管理者を選任して届けなければならない
アルコールチェック義務化が適用される「定員11人以上の車両を1台以上保有」「その他の自動車を5台以上所有」の要件を満たす事業者は、安全運転管理者を選任する義務があります。
また「自動車を20台以上保有」している場合には副安全運転管理者を選任しなければなりません。副安全運転管理者は20台ごとに1名追加して選任することが必要です。
安全運転管理者を選任したら、15日以内に事業所のある地域の警察に届けます。安全運転管理者や副安全運転管理者を選任しなかった場合は50万円以下の罰金、選任の届出をしていなかった場合にも、5万円以下の罰金の対象となります。
安全運転管理者の資格条件
安全運転管理者は誰でもなれるわけではありません。
安全運転管理者になれる要件は以下のとおりです。
年齢 | 20歳以上(副安全運転管理者を選任する事業所の場合は30歳以上) |
運転管理の実務経験 | 自動車の運転の管理に関し、2年以上の実務経験を有する者 上記の者と同等以上の能力を有すると公安委員会が認定した者 (いずれかの一つに該当していること) |
欠格要件 | 1.公安委員会の命令により安全運転管理者等を解任され、解任の日から2年を経過していない者 2.下記の違反行為等をした日から2年を経過していない者 ・ひき逃げ ・無免許運転、酒酔い運転、酒気帯び運転、 麻薬等運転無免許運転にかかわった車両の提供、無免許運転の車両への同乗 ・酒酔い・酒気帯び運転にかかわった車両の提供、酒類の提供、 酒酔い・酒気帯び運転の車両への同乗 ・酒酔い・酒気帯び運転、無免許運転、過労運転、放置駐車違反等の下命・容認 ・自動車使用制限命令違反 ・妨害運転(著しい交通の危険、交通の危険のおそれ) |
副安全運転管理者を選任する場合も、年齢は20歳以上が要件です。実務経験は自動車の運転の経験期間が3年以上、もしくは自動車の運転の管理に関して1年以上の実務経験を有することが要件になります。欠格要件に関しては、安全運転管理者と同様です。
安全運転管理者の責務
安全運転管理者に求められる業務は以下のとおりです。
- 運転者の状況把握
- 安全運転確保のための運行計画の作成
- 長距離、夜間運転時の交替要員の配置
- 異常気象時等の安全確保の措置
- 点呼等による安全運転の指示
- 運転前後の酒気帯びの有無の確認
- 酒気帯びの有無の確認に係る記録と、記録の一年間の保存
- 運転日誌の記録
- 運転者に対する指導
これまでも安全運転管理者には、適切な安全運転管理に対してさまざまな業務が定められていました。法改正により、2023年12月1日からは酒気帯びの有無の確認に「アルコール検知器を用いる」ことが追加されます。
また、事業主は安全運転管理者と副安全運転管理者に「安全運転管理者等法定講習」を受けさせなくてはならないと定められています。受講は代理が認められないため、必ず選任されている本人が受けなければなりません。
講習は各警察署の管轄区域ごとに実施されており、日程や受講方法は都道府県によって異なるため確認が必要です。会場に受けに行くほかに、オンライン講習が行われているところもあります。
介護事業所も義務化の対象となる
介護施設や事業所で勤務されている方もアルコールチェックの義務化は他人事ではありません。
「定員11人以上の車両を1台以上保有」「その他の自動車を5台以上所有(オートバイは0.5台として換算)」この要件に当てはまる事業所も多いのではないでしょうか。
介護事業所で対象となるケース
介護事業者では、主に以下のような業務を行う事業者にアルコールチェックの義務化が適用される可能性があります。
- 訪問介護の介護タクシー
- 通いのサービスなどで高齢者を車で送迎している
- 在宅サービスでご利用者の自宅へ訪問している
通いのサービスにはデイサービスやデイケアのほか、ショートステイなどで高齢者を自宅から施設まで送迎しているケースが含まれます。
また、訪問介護サービス・訪問看護サービス・訪問リハビリ・訪問診療などを行う事業者は、高齢者のご自宅まで車やオートバイで訪問するケースも多いでしょう。
これらの業務を施設や事業所の車両で行っている場合などは、アルコールチェック義務化の対象になる可能性があります。
安全運転管理者は事業所ごとに配置する
安全運転管理者は事業所ごとに配置することと定められています。複数の事業所がある場合も兼任することができないため、それぞれの事業所に安全運転管理者等を選任する必要があります。
事業所単位なので、それぞれの事業所が要件に当てはまらない場合は選任する必要がありません。
直行直帰のヘルパーはどうなる?
訪問サービスを行っている介護事業者で困るのが、直行直帰をする従業員のアルコールチェックではないでしょうか?ヘルパーや訪問看護師など、通常の勤務時間外の訪問や突発的な訪問が発生するケースもあります。
登録ヘルパーなどは、基本的に直行直帰の方がほとんどなので、これを全てチェックするとなると、安全運転管理者は大変です。
そこで、日本在宅介護協会が現場の実態に即した運用を求めていたところ、次のような回答があったとのことです。
【警察庁見解】
訪問介護事業者等が業務で使用する従業員の私有車について、
当該事業者と当該従業員との間で賃貸借契約等が締結されていない場合において、
当該事業者は、安全運転管理者の選任義務が課せられている自動車の使用者には該当しないものと解される。
日本在宅介護協会 安全運転管理者の業務拡充に伴う酒気帯び確認について
つまり、ヘルパーがマイカーを業務で使用している場合で、事業主がそのマイカーを管理したり、社用車として運用したりする状態でなければ対象外になります。
ただし、車両を5台以上有する事業所にはアルコールチェックに義務が発生するのには変わりないので注意が必要です。また、訪問介護のヘルパーがマイカーで訪問している時に事故を起こした場合は、民法715条の「使用者責任」が問われる可能性もあります。
対象外になったとはいえ、法改正により飲酒運転・酒気帯び運転根絶の気運が高まる中で気を引き締めていかなくてはならないのは当然です。
ルールについては今後見直される可能性もあるため、今後の同行を注視していく必要があります。
参考:日本在宅介護協会 安全運転管理者の業務拡充に伴う酒気帯び確認について
義務の対象者に正しい理解を
今回の記事では、アルコールチェック義務化の対象者について解説しました。
義務の対象になっている事業者はルールを正しく理解して、法令遵守ができるように業務体制などを見直ししていく必要があります。
また、アルコールチェックの対象外となった事業者や登録ヘルパーなども、より一層の意識改革が必要です。
対象となる事業所も対象外の事業所も、これを機に交通事故を予防する対策について検討してみましょう。
投稿者プロフィール
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特別養護老人ホーム、有料老人ホーム、居宅介護支援事業所での勤務経験。
介護福祉士、介護支援専門員の資格を活かし、高齢者やその家族、介護現場で働く方々のお役に立てる情報をウェブメディアなどで執筆中。
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