座薬の投与など普段の業務の中で「これって医療行為?」「ヘルパー(介護士:以下同様)がやってもいいの?」と判断に迷ったり、不安に思うことはよくありますよね。
ヘルパーとして自信をもって働くために『ヘルパーができる医療的ケア』の知識を身に付けるのは大切です。
この記事では、介護を業として行っている全てのヘルパーさんたちに知っておいてもらいたい、医療的ケアや正しい座薬の挿入の使用方法などについて解説しています。
ぜひ、日々の業務に役立ててください。
ヘルパーの座薬投与はできる?
ヘルパーの座薬投与は行って良い行為でしょうか?
訪問介護は他のサービスと異なり業務の範囲が細かく区切られています。持っている資格によってできる業務が限られてくるのです。
前半は、座薬についての知識を、後半は厚労省が出した通知に基づいてヘルパーができる医療的行為について解説していきます。
座薬投与は医療行為に該当しない
医療行為に該当しない(ヘルパーが実施可能な医療的ケア)として、利用者の状態が安定している場合にヘルパーが行うことができる処置は以下のとおりです。
- バイタルサイン測定
- 体温測定・自動血圧測定器による測定・動脈血酸素飽和度測定(パルスオキシメーター装着)
- 軽い傷ややけどなどの専門的な判断や技術を必要としない処置
- 軟膏の塗布(褥瘡(床ずれ)の処置以外)
- 座薬の挿入・包化された内用薬の服薬介助等
これら座薬の挿入をはじめ、一包化された内用薬の服薬介助・点眼薬の投与・湿布薬の貼付・軟膏塗布・鼻腔粘膜への薬剤噴霧の介助は以下の条件を満たしていればヘルパーでも行えます。
- 患者が入院・入所して治療する必要がなく容態が安定していること
- 副作用の危険性や投薬量の調整等のため、医師又は看護職員による連続的な容態の経過観察が必要である場合ではないこと
- 内用薬については誤嚥の可能性、坐薬については肛門からの出血の可能性など、当該医薬品の使用の方法そのものについて専門的な配慮が必要な場合ではないこと
よって、座薬投与は上記の条件を満たしていれば、ヘルパーが行っても問題のない行為と言えます。
訪問介護で「できること」「できないこと」
訪問介護で「できること」「できないこと」が大きなイラストと事例でわかりやすく解説されています。
「身体介護」「生活援助」など、介助別に全90の事例をQ&Aで解説。
座薬について知ろう
では次に、「座薬」及び「座薬の投与」について解説していきます。
座薬とは?
座薬とは、肛門や膣に入れて使用する医薬品のことです。肛門周辺の局所作用のある座薬と、腸粘膜(ちょうねんまく)から吸収されて血中に移行し、全身に作用する座薬があります。体温で薬の成分が溶けることで体内に素早く吸収されるため、即効性に優れた薬です。
座薬は、飲み薬や注射薬を使用することが困難な場合に処方されることが多く、高齢者や小児などに多く処方されます。座薬の主な種類は解熱・鎮痛・吐き気止め・下剤・痔の治療薬などがあります。特に高齢者には下剤・吐き気止め・鎮痛などで使用されることが多く、他の薬剤や食事との影響もないため、比較的安定した効果を発揮する薬剤です。
座薬の保管方法
一般的な座薬は体温で溶けるように作られています。高温の場所での保管は座薬が溶けてしまうことがあるため、冷蔵庫内など冷所で保存するのが一般的です。一度溶けてしまった座薬は変形したり、有効成分が偏ってしまうことがあるので注意しましょう。
座薬の正しい使用方法
できるだけ排便を済ませてから挿入しましょう。
座薬は体重に合わせて、通常使用する2分の1、または3分の2などに減量して使用することがありますが、高齢者に減量して使用することはあまりありません。
もし、座薬のカットが必要であれば、カットは使用直前に行います。包装の上から清潔なハサミや包丁、カッターなどで切り、先端のとがったほうを使います。
座薬の挿入方法
〇挿入する姿勢
横向きに寝て両足を曲げてもらうか、中腰が出来るようであれば中腰の状態で先がとがっている方から肛門に挿入しましょう。挿入時にうまく入らないときは、座薬の先に水やワセリンなどを少量つけるか、手の上で転がして少し温めれば入りやすくなります。座薬がきちんと挿入されれば違和感はありません。
しばらく動かずゆっくりと足を伸ばす(寝ていた場合)か、ゆっくりと立ち上がれば(中腰の場合)肛門内にうまく収まります。
〇挿入する際の注意点
肛門の奥まで入らないと出てきてしまうことがあります。挿入直後は形を保ったまま出てきてしまうこともあるので、ティッシュなどでしばらく押さえておきましょう。また、挿入後20〜30分間は静かに過ごすようにしましょう。
挿入する際に、利用者に深呼吸してもらうと肛門の括約筋が緩み挿入しやすくなります。
肛門や肛門周囲に出血があったり、便に血が混じっていたらすぐに管理者に連絡しましょう。
挿入が上手くいかなかった時は?
挿入直後に形が残ったまま出てきてしまったときは、焦らずに再度挿入してください。
もし固形状の座薬が確認できなければ、すでに成分が吸収されていると考えられるため、しばらく様子をみてください。判断に困ったときは自己判断せずに、必ず管理者かかかりつけの医師に連絡するようにしましょう。
高齢者の場合は下剤としての使用も多く、座薬の挿入時に肛門を刺激することによって下痢や大量排便をしてしまう場合もあります。急な血圧低下や意識消失等が起こる可能性もあるので、管理者に報告し、指示に従いましょう。
症状が改善しない時は?
一般的に座薬は内服薬に比べて吸収が早く、効果がすぐに現れるという利点をもっています。
解熱鎮痛薬の座薬の場合は、入れてから30分以内に効果が現れ、その効果は4~6時間持続します。なので、挿入して1~2時間経っても効果がないからとすぐに追加してはいけません。一度使用したら少なくとも5~6時間は、様子を観察するようにしましょう。
座薬の投与は知識をもって対応しよう
座薬は効果が出やすく、高齢者に比較的よく使われる薬剤です。
医療行為とはされておらず、一定の条件下ではヘルパーも投与が可能な行為ですが、リスクや注意点をあらかじめ知り、慌てず対応することが必要です。
きちんとした知識をもって、安全に対応しましょう。
原則として医療行為の規制の対象ではないもの
ここからは、医療行為として規制の対象ではないものについて説明していますので参考にしてくださいね。
以下は、医療行為として規制の対象とされていない行為です。
- 爪切り
- 口腔ケア(歯周病などがない場合のみ)
- 耳垢除去
- ストマ装具のパウチに貯まった排泄物を捨てる(肌に接着したパウチの取り換えは禁止)
- 自己導尿の補助として、カテーテルの準備や体位の保持
- 市販のディスポーザブルグリセリン浣腸器を用いた浣腸
しかし、厚労省は、これらについても、高齢者介護や障害者介護の現場等において安全に行われるべきものであり、実施者に対しては、一定の研修や訓練が行われることが望ましいとしています。
また、利用者の病状が不安定なときなどには上記の行為であっても医療行為となることがあります。判断に困ったら、管理者に相談しましょう。
引用元:歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)
その他に、研修を受けたヘルパーのみが行える医療行為(喀痰吸引・経管栄養)もあります。
服薬介助については、服薬の準備、見守り及び服薬確認は可能ですが、「シートから薬を出す」などの行為は医療行為となっていますので注意してください。
「こんな時どうしたらいいの?」ヘルパーの医療的ケアに関するよくある質問
最後に、ヘルパーの医療的ケアについてよく聞かれる質問をまとめてみました。
無資格ですが、湿布の貼付、爪切り、歯磨き等をしてもいい?
無資格のヘルパーは、訪問介護で身体介護ができません。これは訪問介護が基本的に1人で介護サービスを行うことが多いためです。
ケアマネージャーが生活援助としてケアプランに挙げている行為であれば実施可能です。
看護職員や有資格者に同行して経験を積んでいきながら、無資格の人は資格取得のための研修の受講を検討しましょう。
看護師の資格を持って介護ヘルパーをしています。医療行為はできる?
ホームヘルパーのなかには看護師資格をもっている人もいます。
ここで注意しなければならないのは、看護師資格をもっていてもホームヘルパーとして登録・活動しているときは、医療行為はできないということです。
看護師でも、ホームヘルプ時は介護職と同様の扱いになりますので注意してください。
訪問に行ったら「座薬を入れて」と頼まれました。やってもいい?
座薬投与に関しては、上で述べた、厚労省通知の内容を満たす必要があります。
いつでも、どこでもできるわけではありません。つまり、「医師等の処方や、服薬などの指導・助言、介護職が実施する旨の家族等への説明と同意」などが必要で、慎重な対応が重要になります。
利用者本人からの依頼であっても、その時点ではできないことをお伝えして、後に管理者やケアマネージャーから利用者に説明してもらうようにしましょう。
ヘルパーが出来ない医療行為にはどんなものがある?
「インスリン注射」「摘便」「床ずれの処置」「点滴の管理」「血糖値の測定」などの医療行為は禁止されています。通知にある項目以外については医療行為です。
また、利用者さんの体調が悪い時や不安定な時は、自己判断せずに管理者に速やかに報告・相談しましょう。
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まとめ
訪問介護に入っていると、本人や家族から医療的な行為をお願いされることがあります。
医療行為かどうか判断に迷うときは、速やかに事業所に確認したうえで返答しましょう。
今回、ヘルパーの座薬投与は一定の条件をクリアしていれば認められているケアだということが分かりました。
ただし、訪問介護の場合は滞在時間が決まっているため、長時間の状態観察が出来ません。安全性も含めて事業所内で検討する必要があるのではないでしょうか。
社会情勢は変化を続け、介護の分野での医療ニーズはどんどん高まっていきます。
ヘルパー自身の安全も確保しつつ、利用者の希望に沿った安全なサービスを提供するために、私たちは医療的知識をしっかり理解していかなければなりませんね。
投稿者プロフィール
- 介護福祉士・主任介護支援専門員・認知症ケア専門士・社会福祉士・衛生管理者・特別養護老人ホーム施設長・社会福祉法人本部長経験と、福祉業界で約25年勤務。現在は認知症グループホームでアドバイザー兼Webライター。
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