訪問・通所の高齢者虐待防止・身体拘束適正化の義務化の徹底対策!

訪問介護

令和6年度の介護報酬改定において訪問・通所の高齢者虐待防止・身体拘束適正化が義務化となりました。適正な取り組みをしない場合、減算対象となり、より一層の対策が求められています。 

私自身も、介護のリーダーや主任たちと「高齢者虐待や身体拘束の意識を高めるには?」「これは虐待か?」「これは身体拘束なのか?」と散々話し合った経験があります。                                                  

この記事では、介護報酬改定の細かな内容や高齢者の虐待や身体拘束の原因や考え方、方言の位置づけなどを解説しています。

また報酬改定で示された高齢者虐待と身体拘束の適正化について必要とされる確認書類のモデル例等も紹介しています。事業所の体制作りにぜひ役立ててください。

令和6年度介護報酬改定について、具体的な単位数や加算の状況が明らかになり、訪問・通所の高齢者虐待防止・身体拘束適正化が義務化となったことで、今後は、介護事業も「コンプライアンス体制」を整備することが、事業を安定的に継続するうえでとても重要となるでしょう。

介護報酬改定のポイント⑧高齢者虐待防止措置未実施減算の創設

高齢者虐待防止措置未実施減算:▲(所定単位数×1/100)

今回の改定で、居宅療養管理指導と特定福祉用具販売を除く全サービスに、「高齢者虐待防止措置未実施減算」(基本報酬から1%減算)が新設されました。(※福祉用具貸与のみ、サービス提供の態様が他と異なることを理由に3年間の経過措置)
つまり、高齢者虐待防止措置として下記の4点が義務付けされたことになります。

  1. 委員会の開催
  2. 指針の整備
  3. 研修の定期的な実施
  4. 担当者設置

減算の適用条件は、1〜4の措置が未実施の場合です。

身体的拘束等の原則禁止や記録の規定がすでに設けられている短期入所系や多機能系サービスでは、以下のように施設と同様の基準となります。

  • 身体的拘束等の適正化のための対策を検討する委員会を3カ月に1回以上開催し、その結果について職員に周知徹底を図ること
  • 指針の整備
  • 研修の定期的な実施

これらの措置が講じられていない場合、「身体拘束廃止未実施減算」(基本報酬から1%減算)が適用されます。
(※ただし1年間の経過措置)

一方、これまで身体的拘束に関するルールが特になかった訪問系、通所系、居宅介護支援、福祉用具貸与・販売には、身体的拘束の原則禁止や、拘束を行う場合に利用者の状況ややむを得ない理由について記録することが運営基準に位置付けられます。

少し分かりにくいので以下にまとめました。

〇令和6年度介護報酬改定の後、新たに「身体的拘束等の適正化のための措置に関する規定」、「身体拘束廃止未実施減算」を受けるサービス種別。

  1. (介護予防)短期入所生活介護
  2. (介護予防)短期入所療養介護
  3. (介護予防)小規模多機能型居宅介
  4. 看護小規模多機能型居宅介護

〇令和6年度介護報酬改定の後、新たに「身体的拘束等の原則禁止や記録に関する規定」を受けるサービス種別。

  • 訪問介護
  • 通所介護
  • 居宅介護支援
  • (介護予防)訪問入浴介護
  • (介護予防)訪問看護
  • (介護予防)訪問リハビリテーション
  • (介護予防)居宅療養管理指導
  • (介護予防)通所リハビリテーション
  • (介護予防)福祉用具貸与
  • (介護予防)特定福祉用具販売
  • 定期巡回・随時対応介護看護
  • 夜間対応型訪問介護
  • 地域密着型通所介護
  • (介護予防)認知症対応型通所介護

運営基準の見直しの文章については、以下を参考にしてください。

◆ 身体的拘束等の適正化の推進

(○○事業所名・或いは法人名)は、以下の規定に則り不当な身体拘束をなくし、高齢者の尊厳を守ります。

  1. 利用者の生命・身体を保護するための緊急やむを得ない場合を除き、身体拘束を行わない
  2. 身体拘束を行う場合は、その態様、時間、利用者の心身の状況、緊急やむを得ない理由を記録する

ここでは、どういった行為が虐待や身体拘束に当たるのかについて簡単に説明しておきます。

虐待とは具体的に以下の行為をいいます。

  1. 身体的虐待
  2. 経済的虐待
  3. 心理的虐待
  4. 性的虐待
  5. 介護・世話の放棄、放任

また、身体拘束とは以下の行為をいいます。

  • 徘徊しないように、車椅子や椅子、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  • 転落しないように、ベッドに体幹や四肢をひも等で縛る。
  • 自分で降りられないように、ベッドを柵(サイドレール)で囲む。
  • 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、四肢をひも等で縛る。
  • 点滴・経管栄養等のチューブを抜かないように、または皮膚をかきむしらないように、手指の機能を制限するミトン型の手袋等をつける。
  • 車椅子や椅子からずり落ちたり、立ち上がったりしないように、Y字型抑制帯や腰ベルト、車椅子テーブルをつける。
  • 立ち上がる能力のある人の立ち上がりを妨げるような椅子を使用する。
  • 脱衣やおむつはずしを制限するために、介護衣(つなぎ服)を着せる。
  • 他人への迷惑行為を防ぐために、ベッドなどに体幹や四肢をひも等で縛る。
  • 行動を落ち着かせるために、向精神薬を過剰に服用させる。
  • 自分の意思であけることのできない居室等に隔離する。

(参考:介護保険指定基準における身体拘束禁止の対象となる具体的行為)

身体拘束は、高齢者虐待(身体的虐待)であると考えられています。

なぜ虐待や身体拘束が起こってしまうのかについての定説はありません。

一般的に、より年齢の高い高齢者・女性・心身に障害のある人がそのような行為を受ける確率が高いという報告もありますが、そのような傾向は顕著でないという報告もあります。
ちなみに、高齢者の虐待等の原因として次のような要因が学説で挙げられています。

介護者が介護をしていく過程で抑圧されたストレスが要介護高齢者に向かうことも多い。介護者のストレスは、被介護者に向かって手が出たり暴力的になったり、酷い言葉になったりすることは、よく目にする事である。介護負担に耐えかねて介護の手抜き、放任になることも多い。
外部のものが出入りすることによって状況判断がつくので、できるだけ介護の専門家の出入りを増やしたい。

例えば、家族内に精神障害・アルコール依存症・人格障害等があり、相互依存が顕著な場合に家族間で当然なさるべき配慮に欠け、虐待や身体拘束のような状態になることがある。ただし、個別の事例において、そのような問題を持つ人および家族間を簡単に虐待と結びつけるべきではなく、医療関係者やソーシャルワーカー等専門家の丁寧な聞き取りやカウンセリングが必要となる。このような場合は、見えにくい・介入しにくい・隠す場合が多く、事態が疑われたら速やかに相互の安全を確保するように努めたい。

年齢による高齢者への差別をエイジズムと呼ぶが、高齢者虐待の根底には高齢者への差別感があることを忘れてはならない。高齢者を価値のある存在としてみず、社会の中で役に立たなくなった・無駄な存在とする見方、依存することや保護されることを良しとしない・価値がないという社会的な思想も虐待問題の根底にある

このような考え方を知識として持っていることは、介護の専門家として出来ること・やらねばならないことが少し明確になって行くかもしれませんね。

介護士と利用者の関係性は、ある意味、上下関係に近いものがあります。

例えば、「ちょっと待ってください」を「ちょっと待って」や「動かないで」と言った場合に、相手はどう感じるでしょうか。

「危ないです。止めましょう。」という場合、「ダメ」「止めて」と言ったら?

ただし、常に丁寧語が良いというわけでもありません。丁寧語は時と場合によっては他人行儀や冷たい感じに受け止められたり、反対にくだけた言葉遣いが親しみや家庭的雰囲気が出て良い印象を与える場合もあります。

気を付けたいのは断定的な命令口調虐待に繋がったり、人権侵害に当たる可能性があるということです。
本当に必要なことは、普段からの信頼と親交だということを覚えておきましょう。

原則として介護の分野では標準語(共通語)を基準としています。それは、利用者本人がどこの出身でどのような言語に親しみを持つのかの確定が難しいことがあるからです。

方言には、その地域の風土や習慣が強く影響します。方言によってはキツく感じてしまう人もいるでしょう。地域密着のサービスや、方言を使って話すことに利用者本人が違和感を感じていないようであれば、TPOで方言を使い分けるのも親しみを増幅させることになります。

参考資料:

  • 方言をめぐるコミュニケーションの在り方 今村かほる(医学界新聞 寄稿文書)
  • わが国の高齢者虐待防止法の「虐待」定義に関する一考察 社会関係研究
  • 花園大学社会福祉学部研究紀要  高齢者虐待が深刻化する要因についての研究 ―事例のメタ分析を用いた虐待のメカニズムの解明―
  • 高齢者虐待はなぜ起こるのか? 宮城福祉オンブズネット「エール」 小 湊 純 一
  • エイジズムの関連因子についての文献検討  山梨県立大学

厚労省から虐待の防止等に必要な確認項目及び確認文書の通知がでました。別添 1 確認項目及び確認文書

その通知を参考に、必要な書類の例を紹介します。ここに挙げているのは一例ですので、確認書類等は各事業所に適したものを検討して作り上げてみてください。

虐待防止・身体拘束適正化委員会 組織表

組織名: ヘルパーステーション○○△

総括責任者: □○○○ ○○

委員長: □○○□〇(担当責任)

委員:(現場担当) 

  • □〇△△〇
  • □○○ ○○
  • □○○ ○○                              日付:令和○年〇月●日作成

虐待防止と身体拘束の適正化委員会の開催記録

  • 開催日時: 令和○年○月○日 ○時○分~○時○分
  • 出席者: 委員長□〇〇、委員□○○、当日の担当者(介護職)、看護師・ケアマネージャー・事務員

議題

  1. 前回議事録の確認と承認
  2. 虐待防止及び身体拘束適正化のための指針の検討と仮策定           
  3. 研修計画の立案と実施計画の確認
  4. その他提案事項の議論  

決定事項

  1. 前回議事録を承認した。
  2. 虐待防止及び身体拘束適正化の指針虐待発生・再発防止の指針を次回に決定する。
  3. 研修計画を月次で確認し、必要に応じて修正する。
  4. 次回の委員会日時を○月○日に設定する。

(次回委員会までの指示)

  1. 次回委員会までに虐待防止及び進退拘束適正化の指針を策定し、委員会に提出する。
  2. 研修内容の検証・効果・共有状況の報告。研修形式についての検討。                  
  3. 虐待発生時の対応マニュアルの見直し。                 
  4. 利用者評価とケアプランの見直しの方法の検討。

次回研修予定令和〇年〇月〇日

<虐待を防止し、身体拘束の適正化を行い、利用者にとって適切なケアと安全な環境を提供する。>

内容

  1. 利用者の評価とケアプランの見直し          
  2. 虐待予防や身体拘束についての教育とトレーニングの実施         
  3. 利用者や関係者からの相談窓口の設置  
  4. 虐待発生時の速やかな対応と報告手順の確認
  5. 身体拘束については適切な代替策やケアの方法の実践

研修計画    

目的: 職員のスキル向上と虐待防止・身体拘束適正化への理解を深める。

月次計画:

  1. 令和〇年○月: 虐待防止に関する基本知識の研修
  2. 令和○年○月: コミュニケーションスキル向上の研修
  3. 令和○年○月: 身体拘束適正化の実践トレーニング

研修実施記録                                               

日付: 令和○年○月○日                                             

研修内容: 虐待防止基本知識の講義とグループディスカッション

参加者: □○○ ○○、□○○ ○○、□○○ ○○ ‥‥計○○名                              

指導者: □○○ ○○(外部講師) 

研修担当者: □○○ ○○                                                      

内容:虐待防止基本知識の講義及び(グループワーク)

  1. レジュメとPP(パワーポイント)における座学
  2. その知識を得てGW
  3. 発表後総括

各自治体で身体拘束0への手引きというパンフレットを準備しています。東京都のリンクを貼っていますので、参照してください。

https://www.fukushi.metro.tokyo.lg.jp/zaishien/gyakutai/torikumi/doc/zero_tebiki.pdf

ちなみに、虐待防止と身体的拘束に関する事業所での取り組み状況について、介護情報公表サービスの「登録すべき事項」として追加されます。書類の準備は必須ですね。

高齢者虐待防止と身体拘束の適正化は、介護保険の中でも特に重要な課題となっています。

しかしながら、教育プログラムやトレーニング等を通じて、介護職員や関係者のスキル向上を図り、リーダーシップの確立や連携体制の強化、モニタリングと評価の実施などが総合的に行われることで、高齢者が安全で尊厳ある生活を送れる社会の構築に寄与できるでしょう。

今回の改定では、新たに申請することや体制を作る作業が大きくなります。申請書の様式や提出期限の確認など漏れやミスに注意して準備していきましょう。

2024年度版 介護サービスコード表

2024年4月・6月の改正内容に対応しています。

投稿者プロフィール

Mrs.マープル
Mrs.マープル
介護福祉士・主任介護支援専門員・認知症ケア専門士・社会福祉士・衛生管理者・特別養護老人ホーム施設長・社会福祉法人本部長経験と、福祉業界で約25年勤務。現在は認知症グループホームでアドバイザー兼Webライター。

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