軟膏塗布や在宅酸素などに関わる行為はヘルパーが実施可能?実施可能な範囲について解説!

訪問介護

軟膏塗布や在宅酸素などに関わる行為はヘルパーが実施可能なのでしょうか?医師・歯科医師・看護師等の免許を有しない者による医業は、医師法やその他の関係法規により禁止されています。
ここでいう「医業」とは、「当該行為を行うにあたり、医師の医学的判断及び技術をもってするのでなければ人体に危害を及ぼし、または及ぼすおそれのある行為(医行為)を、反復継続する意思をもって行うことである」と解釈します。

では、人体に危害を及ぼし、または及ぼすおそれのある「医行為」とは何でしょう。
手術や注射など、明らかに「医行為」と分かるものは別として、実際の介護現場では「医行為」にあたるかの判断が難しい場合も多いのではないでしょうか。
日々、介護の現場で働くヘルパーさん達は、「これは介護職がしてもいいの?」と悩まれることも多いと思います。
そこで今回は、ヘルパーさんが介護の現場で遭遇することの多い行為について詳しく見ていきましょう。

結論から言うと、軟膏の塗布は条件を満たしていれば医行為には当たらず、ヘルパーが実施可能とされています。

満たすべき条件は、以下の通りです。

  • 事前に本人や家族の意向を確認していること
  • 医師により処方され、薬剤師等により服薬指導を受けていること
  • 本人の容態が安定していること
  • 薬の副作用の危険性や投薬量の調整のため、医師や看護師による経過観察が必要ではないこと
  • 薬の使用方法そのものについて専門的な配慮が必要ではないこと

以上のことから、ドラッグストアで購入した軟膏や、患者本人の容態が不安定な時はヘルパーによる軟膏の塗布はできません。

軟膏塗布部位に新たに出血が見られるなど、皮膚状態が変化している場合も軟膏の塗布を見合わせるべきでしょう。

ヘルパーは、ケアマネージャーに皮膚状態に変化が見られることを伝え、ケアマネージャーから主治医や訪問看護師による指示を仰いでもらいます。

そして、ケアマネージャーが作成・修正したケアプランに基づいて軟膏の塗布を行うようにしましょう。

では、褥瘡(床ずれ)部位に軟膏を塗るなどの行為は行ってよいのでしょうか。

答えはNoです。

褥瘡部位への軟膏塗布は医行為に当たります。

褥瘡周辺の洗浄や軟膏塗布は可能ですが、褥瘡部位への直接のケア(洗浄や軟膏塗布等)は実施不可ですので、注意しましょう。

在宅酸素療法は医行為です。

そのため、酸素マスクや経鼻カニューレを通して実際に酸素を吸入させる行為はできません。

また、酸素ボンベの取り扱いや酸素濃縮器から外出用ボンベへの付け替え行為等も不可です。

医行為に当たらずヘルパーが実施可能とされている行為は以下の通りですので、参考にしてください。

  • 患者が酸素マスクや経鼻カニューレを装着していない状況下における、あらかじめ医師から指示された酸素流量の設定、酸素を流入していない状況下における、酸素マスクや経鼻カニューレの装着等の準備や酸素離脱後の片付け。ただし、酸素吸入の開始(流入が開始している酸素マスクや経鼻カニューレの装着を含む)や停止(吸入中の酸素マスクや経鼻カニューレの除去を含む)は医師、看護師または患者本人が行うこと
  • 在宅酸素療法を実施するに当たって、酸素供給装置の加湿瓶の蒸留水を交換する、機器の拭き取りを行う等の機械の使用に係る環境の整備を行うこと
    • 在宅人工呼吸器を使用している患者の体位変換を行う場合に、医師または看護師の立ち合いの下で、人工呼吸器の位置の変更を行うこと

在宅酸素療法において、ヘルパーが実施可能である行為は基本的に酸素が流入されていない時に限られます。

では、酸素吸入中にマスクやカニューレが外れてしまった時は放置しておくしかないのでしょうか。

答えは、「元の位置に戻すことができる」です。

医政発1201第4号 令和4年12月1日 医師法第17条 歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)において以下の通り記されています。

在宅酸素療法を実施するに当たって、酸素流入中の酸素マスクや経鼻カニューレが外れ、次のいずれかに該当する患者(肢体不自由等により、自力で酸素マスクや経鼻カニューレを戻すことが困難である患者もしくは睡眠中や意識がない状態で、自力で酸素マスクや経鼻カニューレを戻すことが困難である者)が一時的に酸素から離脱(流入量の減少を含む)したことが見込まれる場合に、当該酸素マスクや経鼻カニューレを元の位置に戻すことも、原則として、医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の規制の対象とする必要がないものであると考えられる。

元の位置に戻すことが可能であるとされているものの、対象者が限定されている点に注意が必要です。

経管栄養や喀痰吸引に関する手技は医行為に当たるため、基本的には実施不可です。

ただし、以下の条件を満たせば特定行為としてヘルパーでも実施可能となります。

  • 「喀痰吸引等研修」を修了していること
  • 認定証の交付を受けていること
  • 勤務先が登録事業者であること

条件を満たさずに実施した場合は、違反になりますので注意しましょう。

さらに、経管栄養や喀痰吸引の実施可能範囲は、研修の課程において実施研修を修了した行為のみに限られます。

研修の受講や認定証の申請先は各都道府県になりますので、スキルアップを考えておられるヘルパーさんは一度問い合わせてみてくださいね。

以下の行為は研修の受講や認定証の交付を受けていなくても実施可能です。

  • すでに患者の身体に留置されている経鼻胃管栄養チューブを留めているテープが外れた場合や、汚染した場合に、あらかじめ明示された貼付位置に再度貼付を行うこと(皮膚に発赤等がなく、身体へのテープの貼付に当たって専門的な管理を必要としない場合に限る)
  • 経管栄養の準備や片付け
  • 吸引器に溜まった汚水の廃棄や吸引器に入れる水の補充、吸引チューブ内を洗浄する目的で使用する水の補充を行うこと

経管栄養の準備や片付けは可能とされていますが、栄養剤を実際に注入したり停止したりする行為は実施不可です。

さらに、すでに留置されているチューブが胃に入っているかを確認したり、外れてしまったチューブを入れ直したりすることもできません。

今回は、介護の現場でよく見られる行為が医行為に当たるのか、ヘルパーが実施可能なのかについて解説しました。

他にも、インスリン注射や血糖測定、血圧測定や膀胱留置カテーテル等についても、ヘルパーが実施可能な範囲について細かく指定されています。

一度、厚生労働省の通知をご覧いただくことをお勧めします。

https://www.kaigo-wel.city.nagoya.jp/view/wel/docs_jigyosya/2022122200050/files/041201tsuchi.pdf

【医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(その2)】

過去の通知については以下よりご確認ください。

https://www.kaigo-wel.city.nagoya.jp/view/wel/docs_jigyosya/2022122200050/files/170726tsuchi.pdf

【医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について(通知)】

介護施設などでは、夜間に看護師がいないという理由で、経管栄養や酸素吸入等が必須である患者さんの受け入れを制限しているところもあり、今後さらに医療や介護現場での人手不足が深刻になると、ヘルパーのできる範囲が拡大されていくかもしれません。

高齢者分野において介護職はなくてはならない職業です。介護職のできる範囲が拡大していくのはいいことですが、介護職の負担にならず、患者さん本人やご家族にとって安心安全な介護現場になっていくことを願います。

スゴくわかる!すぐ役立つ! ケアマネ・介護職のための医学知識ガイド

ケアマネジャーや介護職に向け、実務で必要な医学知識をフルカラーで解説。

【目次】
第1章 高齢者の病気 7つの特徴
第2章 おさえておきたい! 高齢者に多い48の病気
1 脳 2 呼吸器  3 循環器  4 消化器  5 泌尿器  6 筋骨格 7 生活習慣病  8 視覚・聴覚  9 皮膚 10 感染症 11 精神疾患

2,310円(税込)/1冊

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