R6年度|小規模訪問介護事業所のための介護職員処遇改善加算算定のポイント

訪問介護

R6年度の介護報酬改定で介護職員処遇改善加算については、特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算との一本化が示されていましたが、詳細な算定要件や移行にあたっての手続きについては情報が公開されていなかったため、どのような変更があるのか気になっていた人も多かったのではないでしょうか。

この記事では、厚生労働省が公開している資料をもとに、新設される介護職員処遇改善加算や必要書類について、特に、処遇改善加算の算定にまだ取り組めていないという小規模事業所様、厚生労働省の資料を確認したものの複雑で悩んでしまったという方に向けて、分かりやすく解説しています。

平成24年に創設された処遇改善加算は、令和元年に、技能経験ある介護職員に重点的に加算額の配分を行う特定処遇改善加算へ変更されました。その後の令和4年、月給段階の賃金改善を目的としたベースアップ等支援加算が創設され現在に至っています。

これらの加算は、介護職員の処遇改善という同じ目的でありながら、それぞれ算定要件や加算率が異なり理解が難しく、算定へのハードルが高いこと、事務作業の負担が大きいことなどがずっと指摘されてきました。そのため、本来なら加算を取得できるのに加算を取得しない事業所が多くなっていました。
令和3年の調査では、「処遇改善加算の算定率は94.1%、特定処遇改善加算算定率は72.8%」で、加算取得に対する事務負担は処遇改善加算の算定に大きな課題となっていました。
※参考:厚生労働省 令和3年度介護従事者処遇状況等調査結果の概要

そこで、今回の改定により「介護職員等処遇改善加算」として処遇改善加算は1本化され、複雑さを解消する方向で変更されることになったのです。

一本化後の新加算である「介護職員等処遇改善加算」は、現行の各種加算・各区分の要件や加算率を組み合わせた上でⅠ〜Ⅳの4区分にされます。

                                          厚労省HPより抜粋 
              

2024年度版介護サービスコード表

2024年4月の報酬改定に対応した【全サービス掲載】介護サービスコード表です。

この新加算のポイントは以下の3点です。

介護人材確保のためには、ボーナスなどの一時金ではなく「月給」の向上が重要という指摘があります。そのため新加算では「新加算(Ⅳ)に相当する部分の1/2以上を月額賃金の改善に充てる」必要があります。しかし、あくまでも月給配分比率の変更であり新たな賃上げを行う必要はありません。要件を満たさない場合、賞与や手当での配分額を月給に移すことも可能です。

また、これまでベースアップ等支援加算を取得していなかった事業所が新加算を取得する場合については、上記に加えて、現行のベースアップ等支援加算に相当する加算額を新たに賃金改善に充て、うち2/3相当を月額賃金の改善に使用する点に注意が必要です。

なお、ここで説明した内容については急激な要件変更を避けるため、令和6年度中に限り実施が猶予されます。

新加算では、介護職員だけではなく事業所内で柔軟な配分を認めるとされています。

新加算等の各事業所内における配分については、介護職員への配分を基本とし、特に経験・技能のある職員に重点的に配分することとするが、事業所内での柔軟な職種間配分を認めることとする(令和6年3月 15 日に通知された「介護職員等処遇改善加算等に関するQ&A問2-1」)

処遇改善加算の目的は、賃上げであることは大前提ではあるものの、介護業界の職場環境をより良くすることも含まれます。大きなポイントは「生産性向上」です。下記要件の処遇改善の取り組みへの実施が求められています。

職場環境等要件

  1. 「入職促進に向けた取り組み」
  2. 「資質の向上やキャリアアップに向けた支援」
  3. 「両立支援・多様な働き方の推進」
  4. 「腰痛を含む心身の健康管理」
  5. 「生産性向上のための業務改善の取り組み」
  6. 「やりがい・働きがいの醸成」

※参考 厚生労働省 介護分野における生産性向上ポータルサイト

ここでも、急激な要件変更を避けるため、令和6年度中に限り、職場環境要件の実施は猶予されます。

新加算によって変更となる加算率は下図の通りです。

                                           厚労省HPより

訪問介護では「新加算I(24.5%)の取得で、仮に1人当たり平均4万円の加算収益がある場合には、新加算(IV)の2分の1(7.2%)に相当する約1万2000円(4万円÷24.5%×7.2%)を月額賃金アップに充てる」ことになります。

介護職員処遇改善加算を算定するためには、体制等状況一覧表・処遇改善計画書・実績報告書などの提出が必要になります。上記の書類がどのような書類なのか、簡単に説明します。
厚労省の介護職員処遇改善加算に係るHPでも、必要な書類の様式や、記入方法の動画もアップされていますので確認してみて下さい。

体制等状況一覧表(体制届出)
体制等状況一覧表とは、取得を届け出る加算や事業所の体制についてを申告するための書類です。事業所が所在する都道府県など(地域密着サービスであれば市町村)の指定権者への提出が必要となります。
各都道府県(地域密着サービスであれば市町村)がそのHPに必要な書類を載せています。それを使うのが一番確実です。

体制等状況一覧表の基本的な提出期日は、居宅系サービスであれば算定を開始する月の前月15日、施設系サービスであれば算定を開始する月の1日までです。よって新加算を算定する場合、居宅系サービスはR6年5月15日、施設系サービスはR6年6月1日が期日となります。
ただし、受付に関しては厚労省より柔軟な取扱いをおこなうよう通知が出ていますので、それぞれの自治体のHP等の提出期限を確認しましょう。

処遇改善計画書
新加算の算定には処遇改善計画書の作成が必要です。処遇改善計画書には、賃金改善計画の記載をすることや、算定要件を満たしている旨について確認をおこないます。

処遇改善計画書を作成したら、事業所が所在する都道府県知事等への提出が必要です。なお、処遇改善計画書は根拠となる資料とあわせて2年間保存する必要があるため注意してください。

新加算に関する処遇改善計画書の提出期限はR6年4月15日となっているところが多いですが、R6年6月15日まで変更が受け付けられる見込みです。また6月以降に処遇改善計画書を変更する場合、居宅系サービスは算定を開始する月の前月15日、施設系サービスは当月1日までに再度提出する必要があります。

実績報告書
実績報告書は新加算の算定後に提出が必要となる書類です。賃金改善の状況や算定要件を満たしていたかどうかについて振り返り提出をおこないます。
実績報告書の提出は、各事業年度における最終の支払があった翌々月の末日までにおこなう必要があります。

なお、介護職員処遇改善加算については区分限度基準額には反映しません。
また、届出時は不要ですが、整備保管を求められるものとして

  • 就業規則及び賃金規程
  • 職員の職責、職務内容に応じた任用要件及び賃金体系
  • 昇給の仕組みについて明文化した書面
  • 利用者の同意書
  • サービス提供体制強化加算等、必要な加算を取得していることが分かる書類(受付済みの届出書の写し等)

などが挙げられます。

ひな形として賃金規程の例を下記に挙げています。参照ください。

介護職員に対する処遇改善加算金の支給に関する規程
(目的)
第1条  この規程は、○○△株式会社(以下「法人」という。)給与規定に規定する給与とは別に、厚生労働省が平成24年度から創設した介護職員処遇改善加算制度(以下「介護職員処遇改善加算制度」という。)に基づき法人の介護職員に対し支給する処遇改善加算金(以下「介護職員処遇改善加算金」という。)について必要な事項を定めるものとする。

(支給対象者)
第2条  法人の常用職員または有期契約職員の別を問わず、厚生労働省の定める介護職員処遇改善加算制度の対象職種職員に対し、介護職員処遇改善加算金を支給する。

(支給額)
第3条  介護職員処遇改善加算金の支給額は、介護職員処遇改善加算制度による加算見込額の範囲内において、常用職員又は有期契約職員の別に法人が定める配分額を基本給(ベースアップ、特別昇給など)・賞与に含めて支給する。また一時金として支給する場合がある。

(支給日)
第4条  介護職員処遇改善加算金の支給は、毎月の基本給に上乗せ、及び原則年 2 回(7月、12 月)に、介護職員処遇改善加算金として給与規程に規定する給与とは別に支給する。なお、当該加算に係る賃金改善として、処遇改善一時金を支給することがある。

(在籍の限定)
第5条  介護職員処遇改善加算金は、支給日現在に在籍していない者については、支給しない。

(キャリアパス)
第6条  職位、職責、及び職務内容に応じた任用要件、賃金体系については、別表のキャリアパスに定める。

(その他)
第8条  この規程は、介護職員処遇改善加算制度が終了すると同時に廃止するものとする。

附則  この規程は、令和6年6月1日から施行する。

処遇改善加算のキャリアパス要件とは、介護職員が将来的なキャリアアップをおこなえるよう、職場環境や研修体制、賃金体系を整えることの推進を目的として設置された環境要件のひとつになります。

介護職員処遇改善加算の導入により、介護現場には多くの効果が期待されます。

労働環境の改善や教育・研修の充実は、介護職員が充実した職場環境で働くことを可能にし、職場への定着率の向上が期待されます。事業所にとっては、介護職員の処遇改善に取り組むことで、より良い介護サービスの提供が実現され、地域からの高い信頼や評価が得られるようになり、そのメリットは職員のみならず、事業所・利用者・地域を含め大きなメリットとなるでしょう。

介護職員処遇改善加算の導入は、介護現場における働きがい向上に向けた一歩と言えます。制度の改善や運用の見直しとともに、介護事業所や政府、関係機関などが連携して、介護職員の処遇改善に取り組むことが重要です。

この機会を利用して事業所全体で話し合い、充実した処遇改善を目指して頂きたいと思います。

投稿者プロフィール

Mrs.マープル
Mrs.マープル
介護福祉士・主任介護支援専門員・認知症ケア専門士・社会福祉士・衛生管理者・特別養護老人ホーム施設長・社会福祉法人本部長経験と、福祉業界で約25年勤務。現在は認知症グループホームでアドバイザー兼Webライター。

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