訪問介護の業務継続計画(BCP)とは?策定手順や具体例を紹介!

訪問介護

BCP策定の義務化。

訪問介護は経過措置を取るって聞いたけど…。
そもそもBCPってなに?
3年あってもできるかどうか…

今回の改定で、介護施設等は2024年4月1日までにBCPが策定・運用されなければ減算と言うことになりました。訪問介護・居宅介護支援・福祉用具貸与には2027年3月末までの経過措置が設けられましたが、そもそもBCPってどういうものでしょうか。

全国3万5,000カ所以上存在する(厚労省調査)訪問介護事業所は、地域の介護の重要拠点となっているだけにBCPの策定は極めて重要です。                 

そこで、この記事では訪問介護のBCPの意味や策定するメリット、計画策定のポイントや手順(災害・感染症)を解説いたします。

BCP(Business Continuity Plan)とはビジネス・コンティニュイティ・プランの略称で、企業や組織が直面する様々なリスクや危機、例えば自然災害や感染症の流行などの異常事態が発生した際に、その事業を継続するための計画や手順を示したものです。

ちなみに、介護事業ではBCPは「業務継続計画と呼ばれ、2021年度の介護報酬改定で介護施設等への計画の策定と研修・訓練(シミュレーション)の実施が義務付けられました。

介護の事業所が業務継続計画を策定するメリットをまとめました。

  • 利用者の命と安全を守ることが出来る
  • 職員自身の安全と雇用の確保に直結する
  • 業務の効率化や改善につながる

非常時の対応が速やかに出来ることで被災しても早期復旧が叶い、安全性の高い施設・事業所として利用者や家族、地域から信頼を得られるだけでなく、研修や訓練によって安心感が生まれ、職員の離職防止にもつながります

訪問介護は、利用者の自宅を訪れて、日常生活のサポートをするサービスです。一番身近な介護の専門職となるため、日々の利用者個々人の情報をより詳しく具体的に発信できる拠点となります。訪問介護事業所の業務継続が困難になると、利用者の健康や命に直結することもあり、万が一に備えて万全の準備をしておかなければなりません。

また、訪問介護のスタッフは、高齢者・障害者、その家族までの心身を支える基本的な知識をもった専門家です。ヘルパーの声かけ一つ、差し伸べた手一つが地域の人々の命や生活を守る手立てとなります。

計画の策定にあたっては、その地域において訪問介護事業所が重要な役割を担っていることを理解して、業務継続の方法や手段を検討しなければなりません。

訪問介護事業所が計画を策定する場合、どのような手順で進めていけばよいのでしょうか。自然災害時と感染症に分けて一般的な手順を紹介します。

キャプス 2021年5月1日初版発行 定価440円(税込) 

キャプスが発行している「訪問系サービス事業所のための命と会社を守る防災マニュアル(簡易版BCP)」は、実際のBCPでも策定する内容のポイントを、訪問系介護サービス事業所の目線でわかりやすく1冊にまとめています。

1.地域のリスクを把握する

まずは災害などが発生した際を想定し、業務継続にどのようなリスクがあるのかを整理・把握しておきましょう。

ハザードマップを活用しながら、事業所のエリアおよび利用者の居住エリア、移動のルートなどで危険が予想される箇所(津波か土砂崩れか住宅密集による火災及び家屋崩壊など)を事前に把握しておくことが、地域に密着した計画策定のポイントとなります。

2.事前対策の検討

次に、大規模災害による被害を最小限にとどめるための対策も検討しておきましょう。

事前対策の内容は多岐にわたりますが、訪問介護事業所では、以下のような対策が考えられます。

  1. 職員の安否確認方法・ルールの策定・職員参集方法の検討
  2. サービス利用者の安否確認、ご家族との連絡手段の確保
  3. 介護用品・医薬品・非常食などの必要品の備蓄
  4. 出勤及び訪問ルートの代替ルート検討
  5. 個々の利用者への最優先ケア など

以前の施設で作成した業務継続計画の中に、職員の安否確認や参集の基準となる『被災時の行動基準』を作りました。施設と併設の訪問介護・居宅介護支援共通用で作ったものです。

以下に、地震発生時の対応の一部分を抜粋して紹介しています。見直しをしながら修正をしなければならないものですが、参考にしてみて下さい。        

                   ○○事業所  被災時の行動基準

 Ⅰ、地震発生時の対応(発動基準:震度4 事業所内各自は速やかに決められた役割に就くこと)

勤務時

<事業所内に居るとき>

  • 安全を確保しつつ、揺れが収まるのを待つ。
  • 施設建物の外へ慌てて飛び出さない
  • 建物設備の損傷による「危険の有無」について確認を行う。

<事業所外にいる時>

(運転時)

  • 徐々にスピードを落とし、路肩に寄せてエンジンを切り、揺れが収まるのを待つ。
  • 周囲の被害状況を踏まえ、事業所に連絡。戻れる状況であるかを上司と判断する。           
  • 利用者や家族、ケアマネには事業所より連絡。   

(歩行時)

  •  頭をカバンや衣類で保護する。
  • 大きな建物がある場合は、建物内へ逃げ込むことも有効。
  • 周囲の被害状況を踏まえ、事業所に連絡。戻れる状況であるかを判断する。
  • 利用者や家族、ケアマネには事業所より連絡。  

(ご利用者宅等訪問時)

  • ご利用者等の安全を確保しつつ、揺れが収まるのを待つ。
  • 建物の状況、家族の状況を確認し、安全が確保される状況か確認する。
  • 安否状況の報告を事業所に入れるよう努力する。(携帯、メール等を活用。通信が途絶えている場合は、利用者宅の有線の電話を借りる。)
  • 火災発生、建物設備の損傷による危険発生がない限り、地域の防災無線を活用する。テレビやラジオで情報を収集する。

勤務外時

自らの安全を確保し、以下の項目について速やかに事業所へ報告する。

  1. 所属・氏名
  2. 本人・家族・自宅状況
  3. 出社の可否(出社可能時期)
  4. 周辺の状況(ライフライン、道路状況等)

3.他の事業所や地域の施設などとの連携

大規模な災害が発生した場合、小規模な事業所の多い訪問介護事業所は、自分の事業所だけでは利用者へのケアが難しい場合もあります。

そのような事態に備えて、他の事業所や地域の施設などと相互支援ができるような体制づくりも求められます。

4.訓練の実施

災害発生時を想定し、職員の安否確認方法や出勤ルートの把握をしておくために、継続的な訓練の実施が求められます。また、訓練の機会に、介護用品や非常食などの必要な物資が備蓄されているか、保管場所や数量なども確認しておくことが大切です。

災害が発生した際は、利用者や訪問中・移動中のスタッフの安全のため迅速な対応をしなければなりません。以下は、緊急時計画に必要な事項です。

  • 計画を発動する基準(例えば、地震の場合は『震度4』とか、水害の場合は『大雨洪水注意報』などを明記しておくと判断に迷いません。)
  • 各担当者の役割分担表(指示・決定、連絡報告、情報収集、物資調達、等)
  • 安否確認の方法(安否確認チェック表等)や連絡先の保管先
  • 訪問やケアの優先順位代替方法などのマニュアル

コロナ禍の期間は、訪問介護事業所にも大きな影響を及ぼし、事業の継続や利用者の安全確保に対する新たな課題を生み出しました。コロナに感染して在宅で過ごす利用者を防護服とゴーグル、マスクで訪問してくれたヘルパー事業所には本当に皆が助かりました。

これからも感染症の流行が無くなるということはないでしょう。だからこそ、感染症に特化した業務継続計画の策定は不可欠です。

訪問介護の感染症業務継続計画に入れておきたい必要な項目を以下に挙げてみました。

  • 平常時の対応  感染症に対する平常時の対応マニュアル。
  • 体制の構築     全体の意思決定。誰が、何をするかを決めておく(役割分担)。関係者の連絡先、連絡フロー。
  • 感染防止策     感染症に関する最新情報。
  • 防護具・消毒液等備蓄品の数 感染者及び感染疑い対応で使用量が増加することを考慮し、何を何日分確保するのか明示。   
  • 研修・訓練の実施 業務継続計画の内容を共有し、研修や訓練を行う回数。
  • 検証・見直し           最新の動向や訓練等で洗い出された課題を計画に反映させるための業務継続計画策定委員会名簿。

感染症では、利用者またはスタッフが感染した場合でも継続してサービス提供できる仕組みを作ることが大切です。以下は、感染症発生時の計画に必須な項目です。

  1. 感染者発生時の対応マニュアル
  2. 関係団体や都道府県等の応援要請先、医療機関や受診・相談センターの連絡先
  3. 職員が不足した場合にもサービスが提供できるような業務の優先順位

計画として決定されたことが滞りなく行動できるように、計画の周知と過不足のない内容が必要です。日頃から職員と一緒に、現場に沿った計画内容に見直していくことが大切です。

業務継続計画を作るための支援として、厚生労働省からガイドラインが出ています。

事業所の規模によって必要な内容が違うかもしれません。自分の事業所が有用に使える程度の計画にしましょう。まずは、必須情報や行動規範から入力していくと良いと思います。

務継続計画(BCP)作成支援に関する研修資料・動画|厚生労働省

新型コロナウイルス感染症発生時の業務継続ガイドライン

介護施設・事業所における自然災害発生時の業務継続ガイドライン

ちなみに、比較的大きな法人に所属し特養などの大規模施設などに併設している事業所の場合は、その法人や施設の計画に準じることが妥当です。

また、小規模の事業所に関しては他の同様の事業所と連携し、自治体や社会福祉協議会等と話し合って作成するのが良いかもしれません。

小規模の事業所が忘れずに行っておきたいのが他事業所との協力協定です。計画を一緒に策定し協力協定を結ぶことで、お互いの強みや弱みを把握でき、「いざ」という時に過不足のない支援効果が発揮できます。

計画が作成できたら、研修と訓練も一緒に実施しましょう。業務継続協力協定は、介護保険関係だけでなく、障害や保育の分野間でも協力ができます。ぜひ、自治体とも話し合いながら地域で業務の継続を目指しましょう。

訪問介護の業務継続計画は、利用者のみならず地域の多くの人たちの安全と生活の継続を確保するための重要な取り組みです。

日常の業務に加えて緊急時の対応もしっかりと考え、事前に計画を立てることで、突発的な危機にも冷静に対応できるようになります。

一事業所が出来ることは限られていますが、地域で集まって協力することで乗り切れる困難があることを、私たちは東日本大震災や能登半島大震災で学びました。

この記事が、実効性のある有用な業務継続計画の策定に役立つよう願います。

投稿者プロフィール

Mrs.マープル
Mrs.マープル
介護福祉士・主任介護支援専門員・認知症ケア専門士・社会福祉士・衛生管理者・特別養護老人ホーム施設長・社会福祉法人本部長経験と、福祉業界で約25年勤務。現在は認知症グループホームでアドバイザー兼Webライター。

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