R6年度の介護職員処遇改善加算については、賃金アップや「生産性の向上」の観点から要件にいくつかの変更がありました。本改定では、報酬のアップ率も高く、また申請書類の簡素化が大幅に行われたため、ほとんどの事業所が取得に前向きです。
介護職員処遇改善加算は、介護職員の処遇改善を促進するための制度であり、小規模介護事業所の経営や運営にとって重要な取り組みです。
そこで、この記事では、加算申請の留意点や加算を取得するメリット、今後の課題を説明しています。また、加算を取得した事業所がどんな内容の改善を行ったか2つの事例を紹介しています。
今回の処遇改善加算によって「生産性の向上」に繋がるように、事業所のケアの質やイメージアップを考えていきましょう。
介護職員処遇改善加算とは?
「介護職員処遇改善加算」とは、介護業務に直接従事する職員(介護職員)の安定的な処遇改善を目的として、賃金改善や職場環境の整備のために必要なお金を国から事業所へ支給する制度です。
この加算の本質は、介護サービスにおいて「生産性向上」をねらう考えがあり、介護サービスの質の向上や人材の定着・確保を目的とした働きやすい職場環境づくりの活動につなげるところにあります。
現在の介護業界の人手不足と今後の介護需要の増大を踏まえると、生産性向上の取り組みは介護現場にとって極めて重要であり、今回の介護職員等改善加算において、給与のベースアップ、労働環境の改善やキャリアの見える化、研修や資格取得などの介護の質の向上などの要件が拡大・緩和されたのは、これを目標としているからです。
今回の改定では、介護職員等処遇改善加算は以下の4つの点で大きく変わりました。
- 処遇改善加算・特定処遇改善加算・ベースアップ等支援加算の一本化
- 経験技能ある職員、一般介護福祉職員、その他の職種間の配分ルールの撤廃
- 職場環境要件の見直し
- 月給配分比率の見直し
こうした項目が簡素化されたことで、取得に対するハードルが下がったといえるでしょう。
加算を取得するメリット
加算を取得することで金銭的なメリットを設けることになり、現に介護に関わる職員として働いている職員たちのモチベーションアップになりますし、職員の労働環境改善にも力を入れ、働き方改革を進めることで、職員の負担軽減やワークライフバランスの改善が目指せます。
さらに、介護職員の専門性の向上を支援するため、研修制度の充実やキャリアアップ支援の強化などにも注力できます。キャリアの過程を見える化することで早期の離職を防止し、将来の見通しや目標を持てるようになるでしょう。
介護職員処遇改善加算の取得は、介護職員の処遇改善や労働環境改善が実現され、高品質かつ安心して介護を受けられる社会の実現に向けて有効だといえます。
処遇改善加算を取得した後の3つの課題
加算の算定には以下のような課題があります。算定の際には以下3点について準備をしておきましょう。
適正なベースアップ
賃金水準の向上などの取り組みには財源が必要です。財務状況の改善や補助金の活用など、資金調達の戦略を検討しましょう。
また、職員たちの期待感も大きい加算です。加算配分が不明瞭になったり公平感を損なわれることのないよう職員全体にしっかりと根拠や目的まで周知徹底しましょう。
提出した計画書に沿った事業所運営と経過の確認及び仕組みの整備
計画書に記入した月額賃金改善計画やキャリアパス要件、職場環境等要件については期間の猶予が認められているものもありますが、最終的には報告が必要になります。現在の状況から変更が可能か、新しく作り上げていくのか事業所で具体的に検討し、仕組みづくりを整備しましょう。
介護職員処遇改善加算の実績報告書
介護職員等処遇改善加算を算定した場合、必ず「実績報告書」の提出が必要です。通常、翌年の7〜8月頃が提出の締め切り日となります。提出しなかった場合、加算の算定要件を満たしていないと判断され、全額返還となるおそれがあるので注意しましょう。
生産性向上ガイドラインを生かした事例の紹介
では、生産性向上を基礎とした事業所の成功事例や、効果的な取り組みはどのようなものでしょうか。2件取り上げてみました。
A事業所の場合
加算を算定するにあたり、もっと開放された事業が出来ないかと思い、多様な従業員やボランティアを増やそうと考えた。経験者や有資格者にこだわらず近隣の主婦や中高年齢者、学生、外国人など幅広い採用をしようと、地域に向けた介護教室の開催や、学校や職場への認知症広報活動への参加を行った。
それと並行して事業所の案内やパンフレット等を配布し、学生のアルバイトや主婦のパートなどの短時間雇用やボランティア等の採用ができ、利用者も増加した。加算はすべての介護職員への配分を行い、その効果もあり給与水準の向上に成功した。事業所Aでは、介護職員のモチベーションが高まり、サービスの質の向上にもつながったと感じている。
現在では、夏休みや冬休みなど小学生が日中の居場所として宿題をしたり、庭の世話をして過ごす場面も見られる。今後は、認知症のケアの一環として地域での事業所の役割りについて職員皆でアイデアを出しているところだ。
B事業所の場合
リーダーや管理者と現場の介護職員間のコミュニケーションがなかなか取れなかったB事業所では労働環境の改善に力を入れた。
何となく行っていた月1回の会議を、個々の介護職員の気づきの発表の場とし、ケア内容や職場環境、業務の改善案を出し合った。それを1カ月の計画に落とし込んで実行し、次の会議時に皆の感想や表彰を含めフィードバックを行っていった。また、職員の視点から業務マニュアルや事故・ヒヤリハットマニュアルなどマニュアルの定期的な見直しも出来るようになった。
トップダウンではないフラットなコミュニケーションによって職場の雰囲気が明るくなり、職員の定着率が向上した。また、利用者とのコミュニケーションもうまく図れるようになり、家族との関係も良くなった。
まとめ
今回の改定の大きな鍵は「生産性向上」です。
日本では今後の人口減少に伴い、介護業界などに従事する人材は減少すると言われています。そこに高齢化も押し寄せることとなり、このままの状況では未来の高齢者、未来の日本を支えることは困難です。今のままのやり方、これまでの方法を続けていては限界が来てしまいます。
処遇改善加算の目的は、介護業界の職場環境をより良くすることも含まれます。
賃金アップのみでは職場環境が悪ければ離職も人材確保も難しいでしょう。
「生産性向上」は、複雑・多様化する高齢者のニーズに備え、創造的な活動ができる現場づくりを目標としています。この加算の職場環境等要件には、労務環境や業務の改善を行い、働き甲斐を感じられる職場つくりを目指す具体的方法が挙げてあります。
この介護職員等処遇改善加算を算定することが、事業所全体がより良い職場へ変化していく原動力となるのではないかと思います。
2024年度版介護サービスコード表
2024年4月の報酬改定に対応した【全サービス掲載】介護サービスコード表です。
投稿者プロフィール
- 介護福祉士・主任介護支援専門員・認知症ケア専門士・社会福祉士・衛生管理者・特別養護老人ホーム施設長・社会福祉法人本部長経験と、福祉業界で約25年勤務。現在は認知症グループホームでアドバイザー兼Webライター。
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