ケアマネージャーは、介護保険法第7条第5項に定義された、要介護者又は要支援者からの相談に応じる相談援助専門職です。
そのため、ケアマネージャーには、職業倫理に基づく行動が強く求められています。
今回は、介護保険制度のおさらいと、ケアマネージャーの役割、やってはいけないことについて、一緒に考えてみましょう。
介護保険制度とは?
介護保険制度はいつどのような経緯でできたのか?
介護保険制度は 、寝たきりや認知症などの介護を必要とする高齢者の増加、介護期間の長期化、併せて家族形態の変化などを背景に2000年4月から始まった社会保険制度です。介護保険法は人口や国の財政、要支援者の状況で3年ごとに見直しをされています。
介護保険制度制定の目的とは?
介護保険法の第1条には、「加齢に伴って生じる心身の変化による疾病等により介護を要する状態となった方が、尊厳を保持し、その人らしい自立した日常生活を営むことができるよう、必要なサービスを給付するための介護保険制度を設け、必要な事項を定めることで、国民の保健医療の向上、及び福祉の増進を図ることを目的とする」とあります。
ちなみに、介護保険制度は、「40歳以上の国民全員が納めた保険料」と「国や市区町村の公費」を1:1の比率で合わせたものを介護の費用に充てるという仕組みです。40歳になった月から全ての人が加入し、支払いの義務が生じます。
この保険料と公費によって、介護サービスを受ける利用者が支払う負担額は、実際にかかった費用の1割〜3割程度に抑えられています。これが、「社会全体で支える介護」という理由です。
この仕組みによって、誰もが高齢になっても、安心して介護を受けながら生活の質を維持し続けることができるというわけです。
ケアマネージャーの役割と守るべきこと
ケアマネージャーの役割
ケアマネージャー(介護支援専門員)は、就業する場所によって呼称が異なります。
- 居宅ケアマネージャー(介護支援専門員)・・・在宅で生活する利用者を対象
- 施設ケアマネージャー(介護支援専門員)・・・施設に入所する利用者を対象
利用者の生活する場所がどこかによって、ケアマネージャーの業務内容や業務量が変わることがありますが、基本的に役割は同じです。
- 介護(支援)認定申請に対する協力・援助
- 居宅・施設サービス計画の作成
- 他サービス業者との連絡調整
- サービス実施状況の把握・評価
- 市町村等行政関係、及び、主治医や医療関係との連絡調整・連携
- 利用者、家族との信頼関係構築・連携
- 相談業務
どこで働いていたとしても、ケアマネージャーの役割は、利用者の自立に向けた日常生活への援助を行っていくことに間違いはありません。
ケアマネージャーの守るべきこと
人権の尊重
利用者の個人の尊厳の保持を第一とします。利用者の基本的人権を擁護し、その有する能力に応じて、自立した日常生活を営むことができるように、利用者本位の立場から支援をします。
公正・中立な立場の堅持
利用者の利益を最優先し、特定のサービス種類、特定の事業所・施設の利益に偏ることなく活動します。
秘密保持
業務に関して知り得た、利用者や関係者のプライバシーを守ります。もちろん、就業中、及び、その職を離れて以降も同様です。
他職種等との連携
利用者が、住み慣れた地域で継続した生活ができるように、関係市町村や地域の保健・福祉・医療サービス等と連携を図り、総合的なサービスの提供を行います。
資質の向上
ケアマネージャーには期間ごとの更新制度が設けられています。多様な相談に相対するため、介護保険以外の知識が必要なことも多いです。自身の資質向上は、全体の資質向上、ひいては要介護者等の環境改善に繋がります。
これらは、ケアマネージャーがマネージメントを実施するにあたり、いつも心に留めておかなければならない基本です。(*ケアマネージャーには他に法令遵守、説明責任、地域包括ケアの推進、社会的信頼の確立などが守るべき倫理としてあります。日本介護支援専門員協会の倫理綱領を参考にしてみてください。)
ケアマネージャーがやってはいけない!?こんな時どうする?
前章の『ケアマネージャーの守るべきこと』を念頭において、私が、これまでに「これは、やってはいけない」と思ったことを簡単に事例として挙げてみました。おそらく、ケアマネージャーの経験がある方は、似たような経験をお持ちではないでしょうか。
事例1
ケアマネージャーのAさんは、骨折後退院することになったCさんのサービス計画に、住宅改修と通所のデイケアを導入したいと考えました。それをCさんに話したところ、とても険悪な雰囲気になってしまいました。Cさんは、亡くなったご主人が建てた古い家をとても大切にしていたのです。
事例2
その居宅介護支援事業所は、デイサービスや訪問介護、サービス付き高齢者住宅等を併設する法人の一事業所です。最近、法人から各事業所に収支のバランスについて指示が出たらしく、ケアマネージャーのHさんは、管理者からヘルパーやデイサービスを利用するなら同法人の事業所を使うように言われました。Hさんは、その方針に違和感がありました。
事例3
ケアマネージャーのⅯさんが、友達とファミレスで食事をしていたら、後ろの席から自分の担当の利用者の名前が聞こえてきました。「?」と思っていたら、その声は、Ⅿさんが計画書の中で位置づけしているサービス事業所の職員でした。店内に、人は多くなかったのですが、Ⅿさんは気が気ではありませんでした。
事例4
会議を終えたケアマネージャーのYさんは、他のケアマネージャーから声をかけられました。計画書の内容や、位置づけしている事業所のことなどについての批判でした。Yさんは、ご利用者やそのご家族の意向をもとに計画を立てたので、なぜそのようなことになってしまうか分からず、とても困ってしまいました。
事例1は、人権の尊重です。自己選択・自己決定は何よりも優先されるべきことです。
事例2は、公正・中立です。そして、ここにもやはり、利用者の人権が重要課題としてあります。
事例3は、守秘義務です。誰かに聞いてほしいことや、相談したいこともいろいろあると思います。ただし、対人援助職には、全て、守秘義務が課されていることを忘れてはいけません。
事例4は、多職種連携に関わります。他者の計画や事業所を批判しては、チームが稼働しません。
まとめ
介護保険法上の全てのことに関して、利用者、及び、家族にその選択権と決定権があります。例えば、ケアマネージャーが、その専門性において別のサービスに有効性がある、と考えたとしても、利用者本人やその家族が選ぶものを優先すべきです。 ケアマネージャーが、利用者に不利益が生じると考えた場合は、利用者や家族としっかり検討します。このプロセスがケアマネージャーと利用者・家族の信頼関係の構築に役立ちます。
ケアマネージャーは、個人で動くことが多いですし、その場で即座に答えを出さないといけない場合もあります。それが正しかったのか?他に答えは無かったのか?不安になることも一杯です。
事例1〜4についても、とるべき手段は、皆さん個々の環境や考え方で違うかもしれません。
ただし、忘れてはいけないことは、ケアマネージャーには守らなければならないことがある、ということです。それを守らなければ、即座に『やってはならないこと』をやってしまったケアマネージャーになります。
今、ケアマネージャーである方、またこれから資格を取ってケアマネージャーになろうとしている方、ぜひ、この機会にもう一度、ケアマネージャーの業務を見直してみるのもいいかもしれません。
投稿者プロフィール
- 介護福祉士・主任介護支援専門員・認知症ケア専門士・社会福祉士・衛生管理者・特別養護老人ホーム施設長・社会福祉法人本部長経験と、福祉業界で約25年勤務。現在は認知症グループホームでアドバイザー兼Webライター。
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