あなたは、ご利用者様に業務外のことを頼まれて、断り切れなかったことはありませんか?
筆者が所属していた訪問看護事業所では、「買い物を頼まれた」「ゴミ出しを頼まれた」ケースなどがあり、訪問看護内容について話し合われたことがあります。
今回は、実際にあった事例を取り上げました。一緒に考えていただけませんか?
訪問看護の具体例|頼まれた内容はできること?
ご利用者様が、「訪問看護師に頼んだ買い物」エピソードをお伝えします。
※ご利用者様の個人情報保護の観点から情報を一部変更しました。
■ 訪問看護内容ではないことを頼まれたエピソード
6年くらい前のエピソードです。
訪問看護が大好きな同僚看護師Xが、Aさん宅を訪問したのは寒い冬の午前中でした。
ご利用者様のAさんは、50代男性、脳梗塞・右半身まひ。
歩行時には杖や歩行器が必要で、横になって過ごすことが多く、一人で長距離は歩けません。
看護とリハビリをおこなうため伺っていました。
♢
【看護師 X】「Aさん、おはようございます!お邪魔します」
と、訪問すると
【Aさん】「寒いなぁ、肉まん食べたい」「買ってきて」
【看護師 X】「寒いし、肉まん食べたくなりますよね」「私たちは買い物に行けなくて…。ごめんなさい。」「事業所に帰ったら、またケアマネさんに相談してみます」
看護師 Xが説明はするものの、Aさんは少しムッとした様子。いつもより会話も少なめです。
食べたい肉まんを「買ってきてもらえない」と、残念だったのでしょうか。
幸いにも、Aさんは訪問を拒否することなく、爪切りなどのケアを受け、室内での可動域運動や家周りでの歩行訓練をおこないました。
看護師Xは、休憩時間に、「日常生活の楽しみを増やす方法」を考えたようです。健康上、毎日肉まんというわけにもいきませんが、たまの楽しみ程度ならよいのではないでしょうか?
その日の夕方、「買い物が業務内ではないこと」を仕方ないとあきらめず、事業所で同僚に相談しました。
カンファレンスの結果、2〜3日後に訪問予定の理学療法士Yが、お試しという形で「リハビリを兼ねた買い物」案を提案。
理学療法士Yは、管理者の許可を得て、危険がないよう入念に計画しました。
■ 訪問看護内容について話し合われたカンファレンス後の訪問日
理学療法士Yが、Aさん宅を訪問し、お試しでリハビリを兼ねた買い物ということを説明すると、Aさんは嬉しそうにしていたようです。
歩行訓練の段階で、いつものように上着を着て外に出ます。
今日は、長距離になるので車いすを持参し、無事にコンビニに着きました。
念願であるホカホカ肉まんを買えたAさんは、キラキラの笑顔です。
家にいることが多いAさんにとって、自分でお店へ行けた達成感や商品を選ぶ喜びは計り知れないでしょう。
ただ、訪問時間オーバーで、継続することは困難でした。
ケアマネージャーにも相談していましたが、後に買い物など、何かあればホームヘルパーさんにお願いすることになりました。
Aさんも対応してくれたことで満足できたのか、「お試し」と説明していたこともあり、看護師に買い物を頼むことはなくなりました。
耳を傾け、買い物を試してくれたことが嬉しかったのかも知れません。
■ エピソードの対策で良かった点
▶ 良かったと思う点
①事業所での話し合い・報告と相談
➁他業種との連携
③個人の楽しみ・生活の質を考えた対策と計画
④ご利用者様への説明とご理解
⑤チーム協力体制の強化
⑥問題の共有、対応の統一化
Aさんの笑顔が思い浮かぶように、みんなで喜びました。
もし、話し合っていなければ、計画は無かったでしょう。
また、Aさんの理解が得られないまま、対策をしていなかった場合は、Aさんの不満や不信感が募っていたかも知れません。
緊急性のない事柄で、単独判断で買い物に行っていたとしたら「あの人は買ってきてくれたのに」と、他の同僚とAさんの関係や同僚同士の関係が崩れる恐れもあります。
しかし、このエピソードでは、何かあれば相談できるというチーム力をも強化できました。
▶ エピソードで反省すべき点
買い物に行くことをリハビリと組み合わせましたが、本来ならば、業務外であったということが反省点です。
しかし、ご自宅で過ごされているのであれば、ご利用者様の楽しみもあって良いのではないかと考えました。
いま思えば、Aさんは介護職のみなさまとの業務内容の違いを把握されていなかったのではないか?とも思います。
ご利用者様と訪問看護側の信頼関係や性格などによっても、その後の結果は変わってくるでしょう。
あらゆることを想定して、事業所で話し合うことが重要です。
看護師ができる介護職の業務
ここで、介護業務と看護業務を比べてみます。
訪問介護は、居宅で日常生活上のお世話をおこなうサービス。
訪問看護内容は、医師の指示のもと居宅で療養上の世話または必要な診療の補助をおこなうことです。
■看護師ができる介護職の業務
■介護職ができる業務「原則として医行為ではないと考えられるもの」
介護職と看護職が「できること・できないこと」をハッキリ線引きすることは難しいこともあります。
現場の声もあるのでしょうか、
平成17年厚生労働省から ”医療機関以外の高齢者介護・障害者介護の現場等において判断に疑義が生じることの多い行為であって原則として医行為ではないと考えられるもの” などについて通知がありました。
「原則として医行為ではないと考えられるもの」には、体温測定や血圧測定、パルスオキシメーターの使用、健康な爪の爪切り、重度の歯周病などがない口腔ケア、医薬品の取り扱い、市販の浣腸薬など。詳しくは「医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について」をご参照ください。
【参考・引用元】医師法第17条、歯科医師法第17条及び保健師助産師看護師法第31条の解釈について
また、”適切か否か判断する際の参考” ”安全に行われるべきもの”とも書かれており、高齢者介護や障害者介護の現場でおこなわれる「原則として医行為ではないと考えられるもの」の業務判断は、ケースバイケースで現場判断と受け取れます。
ご利用者様やご家族は、「同じことをしているのに、なぜこれはダメなの?」などと、思うこともあるかもしれません。実際に「これは頼んでいいことか?」と、聞かれたこともありました。
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ナース手帳
訪問看護師さん向けの専用手帳。
訪問ナースならではの1日のスケジュールが書きこめ、よく使う医療の豆知識が収録されています。
まとめ
ご利用者様に頼まれたことが「訪問看護内容ではないこと」であっても、その都度理由をていねいに説明する、ご利用者様や家族の悩みを知る、事例や対策を共有・統一した対応、訪問看護内容などが書かれた分かりやすいパンフレット利用、そして、良好な信頼関係を継続することなどが重要です。
冒頭で述べました「ゴミ捨てを頼まれた」ケースなどは、ゴミ捨て場が訪問後に通るところにあるならば、臨機応変に出しても良いと個人的には思います。
しかし、考え方はさまざまなので、「事例や対策を共有し、統一した対応」が大切だろうと思います。
ご利用者様やご家族は、一人でストレスを抱えているケースが多いですから、訪問者に悩みなどの思いを伝えられることは良い環境であると言えるでしょう。
悩みが分かることで、寄り添った看護提供をしやすくなります。
生活圏内であるからこそ、友達や子どもに話すように「困っている」「こうして欲しい」など、話されるようになるかも知れません。
居宅で安心してすごしていただくためにも、受け取った悩みは、事業所の仲間と共有し考え、チームでより良い看護を提供したいですね。
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最低限知っておきたい介護保険制度の申請から、施設選び、高齢期の親との付き合い方など、多くの人が直面する悩みを、相談の多い64テーマに絞って紹介。
400人以上の高齢者をサポートしてきた現役ケアマネジャーが事例をもとに解説しています。
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投稿者プロフィール
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戸田看護師
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看護師歴20年。病棟から介護施設・訪問看護などで勤務。2020年からライター活動を開始。みなさまのお役に立てるような記事を作成したいです。どうぞよろしくお願いいたします。
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